厚労省の統計 何が「不適切」なのか

「毎月勤労統計」の何が「不適切」だったのか

厚労省の「毎月勤労統計」の不適切統計問題。新聞では,失業手当などの過少給付についての説明が書かれていているが,統計の取り方がどのように不適切なのかの説明が不十分。私の経験からすると,実は,書いている人が良く分かっていないということが多い。

朝毎読・産経・日経の中で,表を使って正しく,分かりやすく説明しているのは朝日新聞。
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20190111005316.html(朝日新聞デジタルの表)

本来は,500人以上の事業所については全数調査することになっているのに,東京都分だけ2004年(平成16年)から20017年(平成29年)のあいだ勝手に三分の一だけ抽出し,全数調査した他県のデータと合算していた。賃金水準が高い東京都のデータ数が減っているので,その分平均が下がっている(だから,失業手当などの給付額が本来あるべきものより低くなってしまい問題となっている)。

統計は,抽出調査でも抽出条件を適切に定めれば信頼性のある数値が得られる。ただし,今回の場合,三分の一抽出の東京都分の調査と他県の全数調査を合わせるためには東京都の数値を3倍にしなければならない。(それですべてOKということではないが,少し単純化している。)
論理性があれば当然3倍しなければと思いつくはずなのだが,そうしていないのはどうしてだろう。もちろん,そもそも勝手に調査対象を変更すること事自体いけないのだが。

そして,これはおかしいと気が付いて2018年1月から,補正(東京都分を3倍に)して計算するように変わった。そのため,数値が急激に上がった。

この上昇について,厚労省は「毎月勤労統計では(20)18 年1 月のサンプル替えにより、前年比の伸びが実勢よりも高く出ている」とだけ説明している。(http://www.soumu.go.jp/main_content/000576509.pdf)
この説明は嘘ではないが,今回の「東京都分3倍の影響」には口をつぐんでいる。

どこがおかしいか,たとえ話での説明

60人(A地域には30人,B地域30人)の社会があり,その平均所得を求めるとする。
その方法としては,
1.60人の所得を調べて平均する。 正しい方法
  計算式は: 総所得/60
2.A地域の30人とB地域の10人の所得を調べ,その平均をとる。
  計算式は: (A地域の30人分の所得+B地域の10人分の所得)/(30+10)
                 誤った方法
3.A地域の30人とB地域の10人の所得を調べ,A地域はそのまま,B地域の人数・所得を3倍にして足して平均をとる。
  (A地域の30人分の所得+B地域の10人分の所得✕3)/60
                 こっそり誤りを修正しようとした時の方法

役人はなかなか誤りを認めない

隠ぺいではないと大臣は語るが,合理的な説明として可能なのは次の通り。

「以前から,誤った手法と気づいていたが,誤りは知られたくなかった。そこで,抽出対象が変わったどさくさに紛れて,ごまかそうとした。」

行政の決まりにはとても分かりにくいものが多い。そうなるのは,前任者が誤っていたとは認めたくない(そんなことをすれば出世できない)ので,誤った決まりはそのままにして,それを無効化する新たな決まりで上書きするという手法をとるのが原因であることが多い。「施行規則」や「内規」「指導」のような新しいルールが次々と加えられていって,役所の外の人(=国民)にはルールが見えなくなってしまう(これ,実体験。)なんだかなぁ。

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masao
ゲイツ,ジョブズ,さんまと同じ1955年生まれ。 この春から自由人?に。