竹田恒泰氏『日本の民主主義はなぜ世界一長く続いているのか』を上梓

イギリスより長い?

近代民主主義が世界一長く続いているのはイギリスのはずなのにこの書名。どういうこと?と思って中を読むと,「日本の民主主義は明治から」と書いてある。明治維新は1868年。イギリスで起きた最初の市民革命である清教徒革命は1642年。これが民主主義の政治が始まる大きな契機となっている。

「民主国」とは

中を見ていくと,第一章のタイトルは「日本は最古の民主国」。つまり,「世界一長く続いている」のは(近代の)「民主主義」とは異なる「民主」(的な政治)なのです。これを反映させてタイトルを書き直せば,「日本独自の民主主義はなぜ日本で世界一長く続いているのか」となり,あたりまえの・意味のない文になります。「日本にしかないものが,日本では世界で一番長く続いている」ということですから。「今や,春風亭柳昇といいますと,わが国では……私一人で」というギャグが頭に浮かんできました。

とすると,タイトルは「釣り」で,悪いのは出版社・編集者ということになるのでしょう。タイトル次第で新書の販売数は大きく変わります。かつて『バカの壁』が爆発的に売れ,多くの『〇〇の壁』が出版されました。『国家の品格』が売れれば,様々な『〇〇の品格』が次々と世に出ました。 昔も今も,タイトルのインパクトは事実よりも大切です!?

本書の主張は,「日本は聖徳太子の昔から,みんなで話し合って決めるという民主主義の政治が行われている民主主義の国だ」という,昔からあるものと同趣のものと見えます。

民主主義とは何かをたずねると「みんなで話し合って決める政治」という人は多くいます。しかしそのような政治は,西欧に生まれた近代の民主主義とは根本的に違います。

民主主義はフィクション

すべての政治体制には,それぞれの権力を正当化する(支配される人々を納得させる)物語(フィクション)があります。天皇制なら,「昔からずっと天皇家が統治してきた」(万世一系)というフィクションです。神話に書かれている神武天皇から今の天皇まで男系で皇位が受け継がれてきたからというものです。

もちろん,フィクションだから価値がないというのではありません。このフィクションが国家を形成する人々の間で共有されて初めて国家は安定するからです。そして,権力を正当化する(国家を形成する人々を結びつける)理屈は「すべて」の政治体制においてフィクションなのです。

近代民主主義のフィクションが「社会契約説」です。これは「政府は個人の基本的人権を守るために成立した」というものです。

日本国憲法がよろしくないと主張する人たちは,この「個人が基本的人権をもつ」というのが間違っていると感じています。

集団があって,その営みのなかでお互いを思いやって,自己主張せず,空気を読んで生きるというのが正しい生き方。そういう,権利など主張せずにけなげに生きる人を社会は助ける。なのに,日本国憲法は「人は個人として無条件に基本的人権をもっているから,それを主張して良いのだ」という。これはどうしても認められないのです。「そもそも,権利として社会に対して恩恵を求めるのはおかしいし,仮に,主張するにしても義務を果たしてからにしなさい」と思うのです。

権利を主張するのは義務を果たしてから?

「権利を主張するなら義務を果たしてから」という主張は,この本の中でもかなりの項数を費やして行われています。一見正しく思え,説得力を感じる人も多いと思います。
この理屈,お金の貸し借りなど,経済行為では当然のことです。しかし,基本的人権はこのような権利とは異なるものです。これは義務の遂行とは関係なく「生まれながらにして」もつ権利なのですから。

生存権を例に考えてみましょう。「人として生まれてきたからには,人間らしい生活をしたいよね」というのが生存権です。赤ん坊は,親がどんな親でも,ちゃんと世話してもらいたいですよね。

「社会的義務を果たしてはじめてサービスが受けられる」という考えだと,そもそも生存権の保障など成り立ちません。赤ちゃんは「社会的責任」を果たしていませんし,障害など何らかの理由で仕事ができない人は,「社会的義務」を果たすことはできませんから。貧困は個人の責任ではなく社会の責任であると考えるからこそ,社会は社会権・生存権を保障するのです。

不正受給でなくても生活保護がバッシングされるのも,このような考えが一因となっています。自己主張しない「けなげ」な人は助けたいと思うが,権利を主張する人を助ける気にはならないのです。『こんな夜更けにバナナかよ』の鹿野氏のようなタイプの人(けなげでない障碍者)を助ける気持ちにはなれない,となってしまうのです。

ここまで,この本の内容の一部について,思うところを書いてみました。気になるところをチェックしたのみで,本書を購入して全体を熟読したわけではないので理解不足があるかも知れません。悪しからず。

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masao
ゲイツ,ジョブズ,さんまと同じ1955年生まれ。 この春から自由人?に。