政府からお金を引き出すための口実としての「新自由主義」
「新自由主義」の現実の姿
都知事選が始まりました。最近の日本の選挙では,第一の争点として「景気」が取り上げられることがほとんどです。特に国政選挙ではそうなります。そして現在そのほぼ唯一の方法として主張されるのが「新自由主義」的経済政策です。国政では,小泉政権以来,規制をとりはらって自由な経済活動を行い新しい産業を生み出すことが経済成長を促すとされ,効率的で小さな政府が目指されてきました。
しかし,「新自由主義」の名の下に,実際に行われてきた政策は,建前とは異なり,「資本家が,政府を利用して,労働者を搾取することで利益を確保すること」になっています。
経営者をもうけさせる政策
政策の一つとして,消費税が増税される一方で法人税が減税されてきました。これは,税金が高くて外国資本が日本から逃げていくのを防ぐためとされます。
しかし,諸外国も法人税減税を競っているので,結局得をしたのは多国籍企業。企業は,できるだけ税金を少なくできるように資本を移動させています。
また,減税は景気を刺激し,企業の利益が増えて税収は増えるのだとも主張されます。
もう一つの柱が公務員の削減です。非効率な公務員を減らして,行政が行っていた仕事を民間が行えばもっと安く質の高い仕事ができるというのです。しかし,このコロナ禍で保健所の人手不足など問題が明らかになりました。
一方,労働市場の規制緩和によって,多くの非正規雇用がうまれました。竹中平蔵氏らによると,規制緩和によって衰退産業から成長産業に労働力が移動して生産性が高まり経済が成長するのだそうです。しかし,現実には低賃金の非正規雇用が増えた一方で経済は停滞,ワーキングプアなどという語も生まれました。なにしろ,消費者の所得が増えていないのですから,消費は停滞して経済成長など望めない状況になっています。
そして,これで新しく利益を得るようになったのが,企業と非正規雇用の労働者の間に入ってマージンをとるパソナなどの人材派遣会社です。ここらあたりは,ウーバーなどと一緒で,労働の機会を提供するという経済活動で一定の利益をあげるのは正当な行為である一方で,その利益が適当な水準のものであるかどうかとか,実質的な雇用なのに労働者の権利が奪われがちなのはどうかと言う問題があります。
公務員の削減は公務の民間に委託によってすすめられました。ここでも利益をあげたのが間に入る民間企業です。以前は公務員がやっていた仕事を非正規労働者がおこなって,賃金が下げられた分を行政と間に入る企業が分け合うという仕組みが生まれます。
行政の質が低下しているのは,コロナの対応でもわかります。保健所の人員不足や,持続加給付金の給付に時間がかかっているという事態がおきています。安倍首相は「厚労省は一生懸命やっている。記入の間違いで支給が遅れている」と「厚労省から報告を受けた」と弁解しています。しかし,実際の事務をしているのは再々々々委託先ですから,厚労省が適切に情報を得るのは難しくなっています。なにしろ,すべての委託先がどこかを省は把握できていないというのですから。
そして,安倍政権になって露骨になっているのが,政府の支出による株価の維持です。年金の積立金で買う株を大幅に増やし,日銀に株(投資信託)を買わせて株価を維持して来ました。
このように,「新自由主義」的政策は,建前である「自由な経済活動」ではなく,企業が利益を維持するために政府の力を使うというものに化けているのです。
日本の現状は,色々な統計数値を見ればわかるように,自由な経済活動で新しい産業を生み出すのではなく,賃金を下げることと政府を利用することで資本家が利益を確保しているのです。
アベノミクスは最初から,「企業が利益をどんどん増やせば,最終的には労働者が豊かになる(トリクルダウン)」という内容のものでした。
しかし,この方法は,長期的には消費の減退を招き,経済の停滞につながってしまいます(実際ににつながってしまいました)。
「新自由主義」は資本主義の希望として多くの国で採用されてきましたが,それは,成長しなければ死んでしまう資本主義の最後のあがきとして将来かたられるでしょう。
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