池田信夫氏の知らない「法の支配」 再稼働差し止めの仮処分をめぐって

樋口裁判官の知らない法の支配?

高浜原発電3・4号機の再稼働差し止めを命じる仮処分決定を福井地裁が出した。

これに対して原発再稼働に積極的な池田信夫氏は,彼が主催するウェブサイト「アゴラ」で,「樋口裁判官の知らない法の支配」と,この仮処分を批判している。
http://agora-web.jp/archives/1638516.html

「法的根拠なく」民間企業の財産権を侵害するのは「法の支配」の原則から逸脱するという指摘だ。しかし「法の支配」でいう「法」とは憲法をも含むもので,憲法で規定されている人権は一般の法律に優先される。

だから,樋口裁判官が「法律」の根拠もな
く仮処分を決定したのはおかしいという批判は妥当ではない。彼は「憲法」(人権の保障)を根拠に仮処分を決定したと考えられるのだ。

もちろん,原発が人権を侵害しているという彼の判断が正しいかどうかという議論は必要だが,「法の支配」を知らないという批判は当たっていない。

法の支配とは

「法の支配」が,単に「法律に基づく支配」であるのなら,法律を作りさえすればどんな政治でもできることになってしまう。憲法という基本法,そして,人権を侵害できないという原則が「法の支配」で,そうであって初めて,権力を制限し,支配される側の権利を守ることができる。

なお,池田氏が「法の支配」と言っているものは「法治主義」にあたるものである。

また,「財産権も人権であり,それを制限するのはけしからん」という考えているのかもしれないが,人権は時に両立しないもの。そこで日本国憲法では,財産権は生存権などと対立する場合「公共の福祉」を基準に制約を受けることがあると定めている。

史上最大の地震が高浜に来たら

「史上最大の地震が高浜に来たら、原発どころか福井県が全滅して何万人も死亡するだろう。」と池田氏は言う。

でも,「史上最大の地震+原発事故」と「史上最大の地震」は違う。この度の震災でも,原発事故が無ければ復興の状況が全く違ったものになっていただろうことは誰にでもわかる。

ノーリスクの技術はない。自動車事故で毎年数千人の人が亡くなる。でも,原発事故の被害はあまりに大きく,それは実質,永久に回復できない。こんな被害をもたらす可能性のある技術(で実用化されているもの)は他にない。

世界最高水準の安全基準か


読売新聞も再稼働推進の意見を表明している。紙面で,「原子力規制委員会の田中委員長は「福島第一原発事故を踏まえた基準は、世界と比較しても最も厳しいレベル」と強調」などと報じている。
http://www.yomiuri.co.jp/science/20150415-OYT1T50105.html

「他の国の基準と比べて厳しいから安全」と主張するのは「科学的」か。それぞれの国は置かれている自然条件が違う。例えば,大地震の可能性が高い日本の基準は,安定した陸地であるアメリカより格段に厳しいものでなければより安全などと主張できない。(もちろん,報道されている内容以外に,委員会の根拠はあるのでしょう。そうでなければ困ります。)

反原発は非科学的か

再稼働を進めようとする人たちは,再稼働に反対する人たちを「非科学的」・「非合理的」と非難する。原子力行政は科学的なのだから,そこで「安全」とされれば安全なのだという論理だ。

でも,原発事故の前には「科学的根拠に基づいて安全」とされていたものが事故を起こした。だから,再び 「科学的根拠に基づいて安全」と言われても納得できないというのは「論理的」なのだ。

「今度は大丈夫」と言われて疑うのは当然で,それを「非合理的」・「非科学的」と否定されてもなぁ。



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masao
ゲイツ,ジョブズ,さんまと同じ1955年生まれ。 この春から自由人?に。